目次
プロクター・アンド・ギャンブル【PG】の基本情報と歴史
現在180か国以上で多数のブランドを有し「P&G」の名で知られる世界最大の消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブルは1837年にローソク業者のウィリアム・プロクターと石鹸業者のジェームス・ギャンブルの共同出資により設立されました。1937年から一貫してダウ平均の構成銘柄として米国を代表する企業であり続けています。社内での競争が激しく世界有数の収益性を持っておりP&Gのブランド戦略はMBAのケーススタディの題材としてもよく取り上げられています。近年横ばいとなっているEPSから再び成長するために利益率の低いブランドを売却する経営改善策に取り組んでいます。
パンパース、JOY、パンテーン、ボールドなどですが他にも多くのブランドがあります。実はプリングルス(ケロッグ社に売却)やクレアラシル(2000年に現在のレキットベンキーザに売却)なども元々はP&Gのブランドでした。
120年中断することなく配当を継続し、更に現在まで60年以上に渡り増配を続けている配当王銘柄です。
企業情報(創業年・上場年と市場・従業員数・決算・S&P格付け
増配年数 | 64年 |
S&P格付け | AA- |
従業員数 | 97000人 |
創業年 | 1837年 |
上場年 | 1950年 |
決算 | 6月 |
プロクター・アンド・ギャンブル【PG】の株価推移
ゆっくりと株価の上昇は続いてきました。新型コロナウイルスによって消費財の買い溜め需要があり、2020年は新型コロナウイルスによる買い溜め需要もあり、大きな収益となりました。
生活必需品たるディフェンシブ株の筆頭格としてこの先も長く安定したリターンが見込めます。
PERとPBR・配当利回りの推移
グラフK バリュエーション
PERは「株価収益率」であり、その株式が収益の何倍で取引されているかを表しており一般的には割安か割高かを測る代表的な指標の一つと言われています。
ただし、これは先行きの業績に対する投資家の期待を表している面もあり低PERの株が本来の価値より割安なのではなく、万年割安株となる可能性もある事に留意しましょう。反対に高PERの株が一概に割高と言った訳でもなく、その高いPERは将来の成長によって正当化される可能性があります。(収益が上る=株価収益率は下がる)
また、自社株買いによってEPS(1株あたり利益)が上がることでもPERは低下します。
PBRは「株価純資産倍率」を表し会社が保有する純資産の何倍で株式が取引されているかを表します。1倍を下回れば会社清算時の残余財産分配額を下回る事になるため割安と言えます。
しかし、不人気な業種だったり将来性が乏しいとされる企業は1倍を切ったまま放置される事がある事とその純資産は全てが換金可能とは限らない事に注意しましょう。
PERは比較的安定しています。2019年の異常なPERは特殊な要因です。通常はおよそ20~30倍と考えておけば良いでしょう。企業の成長とともに株価も成長しPERは変わらないと言った感じが続いています。
これらは、業種別で比較することでより参考になります。
プロクター・アンド・ギャンブル【PG】の企業分析・注目ポイントと今後の事業展開
事業構成
事業構成
事業の構成比率を表しているグラフです。各日用品からヘルスケアまで様々な分野でバランスよく事業が構成されています。その中でも利益率の良いブランドに源泉を初めており、大きな効果を生み出しています。
国・地域別売上高比率
国・地域別売上高比率
その企業の売上高が地球上のどこで生み出されたものなのかを表しています。米国内での比率は半分以下で後は世界各国で得ており、非常に世界に浸透した企業であることが窺い知れます。
集中と選択による復活
様々なブランドを有するP&Gですが、そのブランドにも流行り廃れとあります。2015年近辺で営業利益率が落ち込んだため、利益率の低いブランドや事業を売却し全体での利益率改善に動きました。
その結果、売上高そのものは当時より減ったものの営業利益は変わらず結果的に営業利益率が上がった形で経営改善は成果を出しつつあります。
このように、P&Gは時代の流れに対応し常に求められる製品とブランドを主力として事業を行ってきました。これこそが長期にわたる株主還元の源泉であり、これからも還元を期待できる有望銘柄たる所以だと考えられます。
プロクター・アンド・ギャンブル【PG】の競合企業とその中での地位
[adsense]プロクター・アンド・ギャンブル【PG】の業績データ
売上高と営業利益等の推移
グラフA 売上高と利益
売上高と営業利益等、損益計算書項目の推移を示しています。売上高はゆっくりと上昇が続いています。
低利益率のブランドを売却したりして集中と選択を進めた結果が現在現れ始めていると言って良いでしょう。
営業利益と純利益の推移
グラフB 営業利益と純利益
営業利益もゆっくりと増加基調にあります。2019年は一時的な税負担と2020年発表の決算はジレットの減損が響きました
2015年まで19%台に落ち込んでいた利益率は2016年を境に22%前後にまで回復しています。この状況が好感され市場では株価が上がっている様子です。
営業利益率と純利益率の推移
グラフC 営業利益率と純利益率
営業利益率も集中と選択を進めた結果20%近辺まで回復しました。一時的な税負担と低迷するシェーピング需要の低下を受けて減損されたジレットなど特殊な要因があるため、翌年以降は元の水準に戻ると考えられます。
営業利益率・純利益率・売上高成長率の推移
グラフD 成長率
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1株の価値(BPS・EPS・SPS・CFPS)の推移
グラフE 1株の価値
グラフE2 1株当たりの売上高
グラフE3 EPSと1株当たりフリーCFの比較
順にBPS(一株当たりの純資産)EPS(一株当たり純利益)SPS(一株当たり売上高)CFPS(1株あたりフリーキャッシュフロー)を示しています。これらは一株当たりの価値を測る数字として有効です。
CFPSは会計上の利益では無くフリーキャッシュフローの面から数字を出します。基本的にEPSと一致しますが、会計処理の方法が変わったり「純利益は減少したがフリーCFは増加した」場合などにより正確な情報を読み取る事ができます。
減損があったりして直近では落ちていますが、売上高自体は回復を続けています。来季以降ここに利益がついてくるでしょう。
キャッシュフローの推移
グラフH キャッシュフロー
営業キャッシュフローは営業活動による収支、投資キャッシュフローは投資活動による収支、財務キャッシュフローは借入金の返済や配当・自社株買いなどを表します。新規借入などを行った時はプラスになる事があります。
フリーキャッシュフローは株主にとっては特に重要で会社が自由に使えるお金を指します。これが内部留保になったり、配当・自社株買いの原資となるからです。
ここでは主に営業キャッシュフローとフリーキャッシュフローを紹介します。投資や財務コストに関しては設備投資やインスタント・カバレッジ・レシオを参照ください。
キャッシュフローは安定した推移順が維持されています。
グラフS キャッシュフロー比率
営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフローの成長率と売上高に対する投資の規模を示しています。
投資がどれだけ売上高に結びついているかを知ることができます。
プロクター・アンド・ギャンブル【PG】の株主還元の推移
配当金・配当性向・増配率の推移
グラフF 配当と配当性向・増配率
配当金と配当性向の推移を記載しています。配当性向は以前かなりギリギリになることもありましたが、近年は通常70%近辺と安定の兆しを見せています。
120年以上に渡り配当を支払い続け、63年間増配を続けてきただけに今後も増配が期待されています。
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発行済み株式数の推移
グラフL 発行済み株式数
自社株買いなどによって発行済み株式数が減るほど、一株当たりの価値は向上し株主に利益をもたらします。
自社株買いも行ってきており、配当に加えて株価の上昇でも株主はリターンを得てきました。
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プロクター・アンド・ギャンブル【PG】の財務諸表と財務データ
グラフO・P 貸借対照表
貸借対照表の概略です。ここでは特に流動比率を見ると良いでしょう。流動資産が流動負債の額を上回っていれば短期的な債務を早期に完済する事が出来ると見込まれるからです。しかし、流動資産にも即時換金できるものばかりではないため内容が重要な事に注意しましょう。流動比率200%超えや当座(現金同等物)比率100%超えがより厳密に見た安全性の指標とみなされています。
貸借対照表の規模は横ばいです。特に巨額の負債を抱えているわけでもなく問題ない数値と言えます。
グラフR 損益計算書(費用と利益)
業績の蘭で紹介済みの収益に対応した損益計算書の費用項目と残った利益を表記しています。
財務状態と健全性
グラフG 財務データ
ここでは、有利子負債比率・自己資本比率を紹介します。この自己資本比率と有利子負債比率は企業の健全性を大きく表しているので注目しましょう。
グラフQ 財務比率
流動比率、当座比率、財務レバレッジ、負債比率を示しています。
流動比率は流動負債に対する流動資産の割合で計算され、短期的な支払い能力を示しています。当座比率は、流動資産の中で「現金預金」「受取手形」「売掛金」などの現金化しやすい資産だけで計算される、流動比率よりも厳しい基準で見た短期的支払い能力の指標です。
財務レバレッジ銀行借入や社債発行などを活用して自己資本を梃子(レバレッジ)にどれだけ負債を活用しているかを示しています。後述される自己資本比率の逆数関係にあり、負債をどのくらい有効活用しているかを表すため、この倍率が高くなると、負債増加によるリスクが顕在化するため注意する必要があります。
設備投資額と研究開発費・減価償却費の推移
グラフJ 事業投資
設備投資の多い会社は成長企業と見られ、将来が期待されている事が多いです。中には維持費的なものもあるので多額の設備投資が何を目的にしているかは見極める必要があります。
特に多い訳でもなく事業に欠かせないだけの設備投資額が一定額かかっている印象です。
ROE・ROA・営業キャッシュフローマージンの推移
グラフI 経営の効率性
こちらは経営の効率性を示すROE、健全性を示すROE、営業活動からどれだけ効率的にキャッシュフローを得ているかを示す営業キャッシュフローマージンです。
ROEが高い企業は設備投資や自社株買いを通じて資本を効率的に活用していることを示しているため、高ければ高いほど自己資本比率は下がる傾向にあります。
自己資本比率はその名の通り総資産に占める自己資本の割合で計算されます。40%近辺と良好な水準で推移しています。
営業キャッシュフローマージンは売上高のうちどれだけの金額を現金で得る事ができたかを見る指標です。高いほど売上額から経費をかけず会社に現金収入をもたらしていると言えます。営業キャッシュフローが営業利益を下回る場合はその営業利益が現金ではない別の入り方をしている事に注意しましょう。
一概に言えるものではありませんが、15%を超えていれば良好と言えるでしょう。
グラフI-2 経営の効率性2
こちらでは投下資本利益率(ROIC)、インスタント・カバレッジ・レシオ、資産回転率の推移を示すグラフを掲載しています。
投下資本利益率は自己資本や有利子負債も含めた事業活動のために行われた投資がどれだけの利益を生み出したかを数字にしています。
インスタント・カバレッジ・レシオは、会社が営業活動により生み出す利益(基本的に営業利益)と金融収益(受取利息と受取配当金が主に該当)が、毎年の支払利息をどの程度上回っているかを示しており、 企業の財務健全性を示す数値であり、この数値が高いほど金利の支払いなどに関して財務的に余裕があります。反対に比率が低いと営業収益のうち多くの割合が支払利息に当てられる形で負債元本が減らず、財務上厳しい状態にあります。
総資産回転率は企業の資産が効率的に売上に結びついていることを表す指標であり、企業の総資産が1年に何回売上高という形で回転したのかを示しています。
財務効率と回転率等
ここでは財務効率などに関連した数値を解説していきます。
グラフU 財務効率
ここでは、売掛金回収期間と在庫日数、回収期間、現金循環日数を紹介していきます。
売掛金回収期間は売掛金がどれくらいの期間をかけて回収されているかを日数で表しており、その日数が短いほど現金化までにかかる期間が短く資金を効率的に活用できていることになります。
在庫日数は在庫として滞留している日数を表しています。在庫として保有している商品の総数が売上の何日分と言い換えることも出来、この日数が少ないほど在庫量は適正な数にコントロールできていると考える事ができます。
回収期間は投資金額が投資によって生まれるキャッシュフローで計算して何年で回収することが出来ているかを表します。設備投資に関する収益性計算には様々な方法が存在しますが回収期間を指標とした場合、この期間が短いほど安全に効率的な投資ができていると考える事ができます。
現金循環日数は「キャッシュ・コンバージョン・サイクル」とも言われ、企業が商品を仕入れるために支出を行なってから売上及び売上債権の回収によって現金を得るまでの期間を指します。この日数が長いほど、手元の現金が減っている期間が長い事になり資金繰りの懸念が現れるため、経営状態を表す重要な指標とも言えます。
グラフV 財務効率 回転率
ここでは、回転率を中心に解説します。売上債権回転率、棚卸資産回転率 固定資産回転率 資産回転率を紹介しています。
売上債権回転率は会社が有する売上債権の回収がどのくらいの期間で行われているかを示す指標で、この数字が低いほど債券の回収に時間がかかっており、資金の効率的な活用が妨げられている事になります。
棚卸資産回転率は在庫回転率と言われることもあり、仕入から売上に至るまでの在庫期間によって適切な在庫量などの判断をするための指標であり、在庫を減らしている会社はこの比率が高くなります。在庫回転率が低いと言う事は顧客に販売される事なく在庫として保持する数が多く、管理コストや廃棄リスクを負っていることになります。
固定資産回転率は保有する固定資産が効率的に活用されているかを示しています。この比率が低い場合は保有する固定資産が有効に活用されることなく滞留している疑いがあり、固定資産への投資が過剰である可能性があります。
総資産回転率は企業の資産がどれだけ効率的に売上に結びついているかを表す指標であり、企業の総資産が1年に何回売上高という形で回転したのかを示しています。売上高が総資産の何倍あるかを見ることでその売上に貢献した企業の総資産がどれほど効率的に活用されているかを測ります。(「グラフI-2 経営の効率性2」で解説済みです)
まとめ
日用品の世界において強力なブランドを築いてきました。今後の新興国でもこれまでと同じようなシェアを獲得することができれば再び成長し続ける企業となるでしょう。
120年の間配当を継続しており、今後もインカム収入として長期に渡り投資家にリターンをもたらしてくれると思います。