目次
キャタピラー【CAT】の基本情報と歴史
創業初期から現在に至るまで世界シェア1位の重機メーカーです。資源開発や建設業者向けの油圧ショベル・ブルドーザー・工業用エンジンなど重機に対して強いブランド力を持っています。米国が売上高の主軸ですが、海外も半数近くを持っており堅調を保つ世界経済の拡大とともに生じる新興国での開発需要に向けた価格競争に勝つべくコスト削減に取り組んでいます。また、天然ガスエンジン・ガスタービンエンジンに関しても世界最大の製造会社です。
他にもホイールローダー、油圧ショベルなど、建設機械、鉱山機械の製造を幅広く行っています。エンジンでもディーゼル、天然ガスその他の産業用ガスタービンエンジンなど様々なエンジンの開発、生産、販売も行っており、まさに重機業界の巨人と言えます。
キャタピラー社は元々ベンジャミン・ホルトが創業したホルト・マニュファクチャリング・カンパニーが農業機械を作ったことに始まり、1925年にC・L・ベスト・ガス・トラクション・カンパニー と合併したことでキャタピラー・トラクターは設立されました。主に国内で事業を行なっていましたが1950年に海外進出を図り、そこから急激に世界全体への進出を進め徐々に海外での売り上げを伸ばした結果1970年には海外での売り上げが国内を抜きました、
建設や資源開発向けに世界180ヵ国以上で事業を行なっておりティッカーシンボルの「CAT」で強いブランド力を誇ります。
ITの進歩により重機のICT化による監視機能も進んでいます。これにより現場の事故を未然に防ぎ安全性の向上に取り組んでいます。
企業情報(創業年・上場年と市場・従業員数・決算・S&P格付け
増配年数 | 26年 |
S&P格付け | A |
従業員数 | 97300人 |
創業年 | 1925年 |
上場年 | 1929年 |
決算 | 12月 |
キャタピラー【CAT】の株価推移
PERとPBR・配当利回りの推移
グラフK バリュエーション
PERは「株価収益率」であり、その株式が収益の何倍で取引されているかを表しており一般的には割安か割高かを測る代表的な指標の一つと言われています。
ただし、これは先行きの業績に対する投資家の期待を表している面もあり低PERの株が本来の価値より割安なのではなく、万年割安株となる可能性もある事に留意しましょう。反対に高PERの株が一概に割高と言った訳でもなく、その高いPERは将来の成長によって正当化される可能性があります。(収益が上る=株価収益率は下がる)
また、自社株買いによってEPS(1株あたり利益)が上がることでもPERは低下します。
PBRは「株価純資産倍率」を表し会社が保有する純資産の何倍で株式が取引されているかを表します。1倍を下回れば会社清算時の残余財産分配額を下回る事になるため割安と言えます。
しかし、不人気な業種だったり将来性が乏しいとされる企業は1倍を切ったまま放置される事がある事とその純資産は全てが換金可能とは限らない事に注意しましょう。
これらは、業種別で比較することでより参考になります。
配当利回りも合わせてこれらの数値で直近の株価が割高なのか割安なのかを知る事ができます。
配当利回りは2~3%と比較的高めで増配が続いています。
キャタピラー【CAT】の決算情報
キャタピラー【CAT】第一四半期決算 2021年4月29日 | ||||
実績 | 市場予想 | 前年同月比 | 備考 | |
売上高 | 118.9億ドル | 104.82億ドル | 12%増加 | |
機械・エネルギー関連売上高 | 111.91億ドル | 104.82億ドル | 13%増加 | |
金融事業からの売上高 | 15.79ドル | 6.95ドル | 3.5%減少 | |
EPS | 2.87ドル | 1.95ドル |
売上高は市場予想を若干上回り、EPSは市場の予想を大幅に上回りました。世界で景気回復が進むにつれて増える建機需要も回復し、中国や南米などの途上国での需要が大きく伸びました。
北米での販売も前年同期を上回り、各部門別の収益は建設機械部門がアジア太平洋で72%増加、南米で48%の増加を見せるなど大きく需要が回復したのが見えます。部門全体では27%増加しています。
他には鉱山機械は6%増加、エネルギー関連機器も4%増加と、主要な事業部門では全てが増収となるなど非常に好調でした。
懸念されるのは、物価が上昇していることによる材料価格の高騰や半導体不足などです。
キャタピラー【CAT】の企業分析・注目ポイントと今後の事業展開
事業構成
グラフM 事業構成
事業の構成比率を表しているグラフです。事業の構成比率を表しているグラフです。銃器の製造販売がほぼ全てと言っていいでしょう。
国・地域別売上高比率
グラフN 国・地域別売上高
その企業の売上高が地球上のどこで生み出されたものなのかを表しています。北アメリカでは半分以下の事業規模となっており、広く世界で事業を行なっている事がわかります。
従業員の6割は海外勤務であり、世界の開発需要を支えています。
無限軌道=キャタピラ
無限軌道の事を一部で「キャタピラ」と言いますが、これは英語で「芋虫」を意味しており、英語圏では「Caterpillar Track」と言います。
キャタピラーの前身であるホルト・マニュファクチャリング社は、1904年に無限軌道を足回りに使用したトラック・タイプ・トラクタを世界で初めて製品化した企業であり、「キャタピラー」はの履帯式トラクタに関して同社が有する商標でした。
高校生になるまでの私もそうでしたが、キャタピラと言った言葉は知っていても「無限軌道」というものが何か知らない人も少なからずいるでしょう。
ベンジャミンホルト氏は従来の車輪を使った農業トラクターから無限軌道(キャタピラ:英語で芋虫)を使った農業トラクターを開発します。
このように一つの形にそのブランドがそのまま使われて世界に浸透していることはキャタピラー社の実績とブランドを物語っていると思います。
建設機器の巨人 キャタピラーが世界に与えた影響
キャタピラーの製品は世界の歴史を動かす重要な所でも活躍してきました。特に第一次世界大戦を皮切りに大きくキャタピラーが歴史に影響を与えました。第一次世界大戦で無限軌道を搭載した車両が戦闘用車両に改良されたことは後の世界に確信をもたらすきっかけとなりました。
1914年〜1918年 第一次世界大戦中、米国および連合国として5,000台のブルドーザを提供
1921年〜1922年 ドナウ運河の建設。
1931年〜1936年 ブルドーザがフーバーダムの建設。
1933年〜1937年 ゴールデンゲートブリッジの建設。
1941年〜1945年 第二次世界大戦中を通じて、国家のために「年間365日の操業」「労働力を倍増」「女性を鋳造工程や組み立てラインに配置」「特殊製品を製造」「下士志願兵を訓練」「資金援助して軍隊用のブルドーザを約5万1,000台生産」と祖国に多大な貢献をしました。
1958年 南極大陸初の常設滑走路を建設。
1961年~1989年 ベルリンの壁の建設と崩壊。
1963年〜1964年 パナマ運河の幅広部分の建設に複数のキャタピラー製建機を使用
1966年〜1973年 NY州のワールドトレードセンターの建設。
1969年 キャタピラー製のエンジンが月へ向かうアポロ11号計画で電力の供給を担う
2004年〜2008年 2008年の北京オリンピックに関連する会場建設
2006年 世界最長の土製防潮堤、セマングム防潮堤(韓国)の完成。
キャタピラー【CAT】の競合企業とその中での地位
コマツ、日立建機など日本でも著名な企業がありますが、キャタピラーの世界的なシェアと規模は建機メーカーの中で圧倒的な首位です。
キャタピラー【CAT】の業績データ
作成時点の最新決算情報である2019年度までの決算データを使いある程度先までまとめてエクセルでグラフ作成しているため、2020年以降の表示がおかしな表記になるものがありますが最新データまでを見るのに問題はありません。本業の側で作成しているためご了承いただければ幸いです。
次回更新で2020年発表データで作成した際は2021年以降が同じような感じになります。
売上高と営業利益等の推移
グラフA 売上高と利益
売上高と営業利益の推移を示しています。
2009年のリーマンショックを乗り越えた後は景気拡大の波に乗り売上高を拡大していきました。しかし、その後の中国バブル崩壊による世界経済失速の懸念から大幅に下落しています。
建設機器の製造が主であるため多くのコストがかかることに加えて、世界の開発需要の動向を大きく受けるため、世界経済の失速が懸念された2016年に大きく売上高は減少しています。
営業利益と純利益の推移
グラフB 営業利益と純利益
上記のように売上高と概ね一致した動き方をしています。
営業利益率と純利益率の推移
グラフC 営業利益率と純利益率
売り上げから利益まで景気動向の影響が大きいです。その要因を分析することはこの業界分析をする上で重要になってくるでしょう。
営業利益率・純利益率・売上高成長率の推移
グラフD 成長率
1株の価値(BPS・EPS・SPS・CFPS)の推移
グラフE 1株の価値
グラフE2 1株当たりの売上高
グラフE3 EPSと1株当たりフリーCFの比較
順にBPS(一株当たりの純資産)EPS(一株当たり純利益)SPS(一株当たり売上高)CFPS(1株あたりフリーキャッシュフロー)を示しています。これらは一株当たりの価値を測る数字として有効です。
CFPSは会計上の利益では無くフリーキャッシュフローの面から数字を出します。基本的にEPSと一致しますが、会計処理の方法が変わったり「純利益は減少したがフリーCFは増加した」場合などにより正確な情報を読み取る事ができます。
キャッシュフローの推移
グラフH キャッシュフロー
営業キャッシュフローは営業活動による収支、投資キャッシュフローは投資活動による収支、財務キャッシュフローは借入金の返済や配当・自社株買いなどを表します。新規借入などを行った時はプラスになる事があります。
フリーキャッシュフローは株主にとっては特に重要で会社が自由に使えるお金を指します。これが内部留保になったり、配当・自社株買いの原資となるからです。
景気動向に左右される部分が非常に大きいものの2016年の中国バブル崩壊の時期にフリーキャッシュフローをプラスで維持しています。
グラフS キャッシュフロー比率
営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフローの成長率と売上高に対する投資の規模を示しています。
投資がどれだけ売上高に結びついているかを知ることができます。
キャタピラー【CAT】の株主還元の推移
配当金・配当性向・増配率の推移
グラフF 配当と配当性向・増配率
急激な成長を続けていた中国から出た景気失速懸念の影響が非常に大きかったのが分かります。
発行済み株式数の推移
グラフL 発行済み株式数
自社株買いなどによって発行済み株式数が減るほど、一株当たりの価値は向上し株主に利益をもたらします。
増減を繰り返していますが、長期的には減少傾向にあることから自社株買いによる株主還元も行なって行く方向性なのが読み取れます。
キャタピラー【CAT】の財務諸表と財務データ
グラフO・P 貸借対照表
貸借対照表の各項目を構成比率で表しています。企業の大まかな財務状況の推移が一目でわかります。
それぞれが貸方(総資産)、借方(負債と純資産)を表します。
グラフR 損益計算書(費用と利益)
業績の蘭で紹介済みの収益に対応した損益計算書の費用項目と残った利益を表記しています。
財務状態と健全性
グラフG 財務データ
ここでは、総資産・自己資本・有利子負債・自己資本比率を紹介します。特に自己資本比率と有利子負債は企業の健全性を大きく表しているので注目しましょう。
収益は景気動向の影響を大きく受けていますが、自己資本比率を含めた財務データは安定しており、20%手前を維持し続けています。
グラフQ 財務比率
流動比率、当座比率、財務レバレッジ、負債比率を示しています。
流動比率は流動負債に対する流動資産の割合で計算され、短期的な支払い能力を示しています。当座比率は、流動資産の中で「現金預金」「受取手形」「売掛金」などの現金化しやすい資産だけで計算される、流動比率よりも厳しい基準で見た短期的支払い能力の指標です。
財務レバレッジ銀行借入や社債発行などを活用して自己資本を梃子(レバレッジ)にどれだけ負債を活用しているかを示しています。後述される自己資本比率の逆数関係にあり、負債をどのくらい有効活用しているかを表すため、この倍率が高くなると、負債増加によるリスクが顕在化するため注意する必要があります。
設備投資額と研究開発費・減価償却費の推移
グラフJ 事業投資
設備投資や研究開発費・減価償却費の多い会社は成長企業と見られ、将来が期待されている事が多いです。中には維持費的なものもあるので多額の設備投資や研究開発費が何を目的にしているかは見極める必要があります。
これらにより企業がどのように投資を行っているかを知る事ができます。
建機メーカーであり、毎年の設備投資に加えて将来に向けた研究開発費安定した規模で計上されています。
ROE・ROA・営業キャッシュフローマージンの推移
グラフI 経営の効率性
こちらは経営の効率性を示すROEとROA、営業活動からどれだけ効率的にキャッシュフローを得ているかを示す営業キャッシュフローマージンです。
ROEが高い企業は設備投資や自社株買いを通じて資本を効率的に活用していることを示しているため、高ければ高いほど自己資本比率は下がる傾向にあります。
ROAは総資産利益率を表しており、会社が有する資産を活用してどれほどの利益を上げる事ができているかを表しています。
営業キャッシュフローマージンは売上高のうちどれだけの金額を現金で得る事ができたかを見る指標です。高いほど売上額から経費をかけず会社に現金収入をもたらしていると言えます。営業キャッシュフローが営業利益を下回る場合はその営業利益が現金ではない別の入り方をしている事に注意しましょう。
一概に言えるものではありませんが、15%を超えていれば良好と言えるでしょう。
グラフI-2 経営の効率性2
こちらでは投下資本利益率(ROIC)、インスタント・カバレッジ・レシオ、資産回転率の推移を示すグラフを掲載しています。
投下資本利益率は自己資本や有利子負債も含めた事業活動のために行われた投資がどれだけの利益を生み出したかを数字にしています。
インスタント・カバレッジ・レシオは、会社が営業活動により生み出す利益(基本的に営業利益)と金融収益(受取利息と受取配当金が主に該当)が、毎年の支払利息をどの程度上回っているかを示しており、 企業の財務健全性を示す数値であり、この数値が高いほど金利の支払いなどに関して財務的に余裕があります。反対に比率が低いと営業収益のうち多くの割合が支払利息に当てられる形で負債元本が減らず、財務上厳しい状態にあります。
総資産回転率は企業の資産が効率的に売上に結びついていることを表す指標であり、企業の総資産が1年に何回売上高という形で回転したのかを示しています。
財務効率と回転率等
ここでは財務効率などに関連した数値を解説していきます。
グラフU 財務効率
ここでは、売掛金回収期間と在庫日数、回収期間、現金循環日数を紹介していきます。
売掛金回収期間は売掛金がどれくらいの期間をかけて回収されているかを日数で表しており、その日数が短いほど現金化までにかかる期間が短く資金を効率的に活用できていることになります。
在庫日数は在庫として滞留している日数を表しています。在庫として保有している商品の総数が売上の何日分と言い換えることも出来、この日数が少ないほど在庫量は適正な数にコントロールできていると考える事ができます。
回収期間は投資金額が投資によって生まれるキャッシュフローで計算して何年で回収することが出来ているかを表します。設備投資に関する収益性計算には様々な方法が存在しますが回収期間を指標とした場合、この期間が短いほど安全に効率的な投資ができていると考える事ができます。
現金循環日数は「キャッシュ・コンバージョン・サイクル」とも言われ、企業が商品を仕入れるために支出を行なってから売上及び売上債権の回収によって現金を得るまでの期間を指します。この日数が長いほど、手元の現金が減っている期間が長い事になり資金繰りの懸念が現れるため、経営状態を表す重要な指標とも言えます。
グラフV 財務効率 回転率
ここでは、回転率を中心に解説します。売上債権回転率、棚卸資産回転率 固定資産回転率 資産回転率を紹介しています。
売上債権回転率は会社が有する売上債権の回収がどのくらいの期間で行われているかを示す指標で、この数字が低いほど債券の回収に時間がかかっており、資金の効率的な活用が妨げられている事になります。
棚卸資産回転率は在庫回転率と言われることもあり、仕入から売上に至るまでの在庫期間によって適切な在庫量などの判断をするための指標であり、在庫を減らしている会社はこの比率が高くなります。在庫回転率が低いと言う事は顧客に販売される事なく在庫として保持する数が多く、管理コストや廃棄リスクを負っていることになります。
固定資産回転率は保有する固定資産が効率的に活用されているかを示しています。この比率が低い場合は保有する固定資産が有効に活用されることなく滞留している疑いがあり、固定資産への投資が過剰である可能性があります。
総資産回転率は企業の資産がどれだけ効率的に売上に結びついているかを表す指標であり、企業の総資産が1年に何回売上高という形で回転したのかを示しています。売上高が総資産の何倍あるかを見ることでその売上に貢献した企業の総資産がどれほど効率的に活用されているかを測ります。(「グラフI-2 経営の効率性2」で解説済みです)
まとめ
創業後一貫して業界の首位を維持し続けている企業である、キャタピラー【CAT】を紹介しました。
日本には世界2位の「コマツ」ありますが、皆さんの周りの工場でも使われている重機を見ると「CAT」のロゴマークを探すことはそう難しいことではないはずです。
景気変動の波を大きく受ける企業ですが、事業の基盤が強固であり注目に値する企業でしょう。